西郷隆盛銅像の知られざる謎と歴史|愛犬ツンと高村光雲の意図
西郷 隆盛 銅像は、東京・上野恩賜公園の小高い丘から、120年以上にわたって首都の移り変わりを見つめ続けている。上野の象徴として親しまれるこの像の前では、今日も多くの旅行客が足を止め、カメラを向ける。だが、この巨大なブロンズ像が完成に至るまでには、関係者たちの激しい葛藤と、近代日本が抱えた複雑な文脈が隠されていた。
明治31(1898)年の除幕式において、夫人の糸が「宿亭(うちのひと)はこんなお人じゃなかった」と声を漏らしたエピソードは有名だ。幕末の動乱を生き抜き、明治維新の立役者でありながら最後の内戦・西南戦争で命を散らした西郷 隆盛 銅像の姿は、なぜ本人の実像と乖離していると言われるのか。その背景には、明治という新時代の国家像と、芸術家たちの執念が深く交錯している。
除幕式で妻が叫んだ異論?「夫はこんな人ではない」の真相

写真が大嫌いだった。写真館のレンズを頑なに拒み続けた西郷隆盛の真の実形を知る人物は、生前からごく一握りに限られていた。現在私たちが目にする顔立ちの多くは、お抱え画工であったエドアルド・キヨッソーネが、弟の従道や従兄弟の大山巌の面影を合成して描いた肖像画に基づいている。
それゆえ、上野の地にお披露目された銅像を眼前にした妻・糸が驚愕したのも無理はない。彼女が指摘したのは顔立ちの不一致だけではなかった。大将の威厳をもつ夫が、公の場に浴衣姿のような着流しで現れるはずがないという、当時の礼節に対する困惑でもあった。軍服姿で威厳を誇示する他の政治家像とは決定的に異なる造形。そこには企画段階での紆余曲折があった。
愛犬ツンのモチーフと作者・高村光雲が仕掛けた造形表現

本体を手掛けたのは、後に日本彫刻会の礎を築くこととなる近代日本彫刻美術の巨匠・高村光雲だ。そして傍らに寄り添う愛犬「ツン」は、動物彫刻の名手として知られた後藤貞行が分担して制作した。二人の巨匠による分業体制が、この独特な世界観を生み出している。
なぜ軍服ではなく、ウサギ狩りに向かう庶民的な姿なのか。西南戦争で賊軍の将として没した経緯もあり、軍服姿での建立には政治的な摩擦が絶えなかった。高村光雲は、権力者としての政治家・西郷ではなく、薩摩の自然を愛し庶民に親しまれた「人間・西郷隆盛」を表現することに傾注した。犬を連れたカジュアルな姿は、政治的対立を解きほぐし、国民的ヒーローへと昇華させるための計算された芸術的意図でもあったのだ。
『西郷どん』と歴史ドキュメンタリーが再燃させた魅力

時代を経てもなお、この銅像が持つストーリー性は失われない。近年では大河ドラマ『西郷どん』の放送をきっかけに、若年層や歴史ファンの間で再び脚光を浴びた。ドラマの熱気は、劇中での西郷の人間味あふれる描写と、上野に立つ佇まいを重ね合わせる巡礼ブームを生み出している。
また、NHKオンデマンドで配信される歴史ドキュメンタリー番組などを通じて、銅像建設の裏に隠された政治劇や高村光雲の苦悩を再確認する鑑賞スタイルも定着した。単なる観光地の記念碑を超えて、幕末維新の激動を読み解く「立体的な歴史テキスト」として親しまれている。
上野恩賜公園西郷隆盛銅像を維持・管理する東京都建設局の取り組み
長年の風雨に晒されながらも、その力強い姿を保ち続けている背景には、綿密なメンテナンスの存在がある。正式名称としての「上野恩賜公園西郷隆盛銅像」および周辺の景観整備は、東京都建設局の厳重な管理のもとで実施されている。
ブロンズ特有の緑青(ろくしょう)の進行を防ぐ防食処理や、地震に耐えうる台座の構造調査など、文化財としての価値を守る取り組みは絶え間なく続く。公園全体の再整備事業が進むなかでも、この銅像がもつ歴史的シンボル性を最優先に考慮した環境保全が行われている。
観光・旅行産業における存在感とGoogle Mapsで巡る最新アクセスガイド
上野エリアにおける観光・旅行産業において、この像は今もなお揺るぎないランドマークだ。国内外からのトラベラーがまず目指す目的地として、絶え間ない賑わいを見せている。
現地を訪れる際は、Google Mapsなどの地図アプリで「西郷隆盛像」と検索すれば、JR上野駅の「不忍口」または「公園口」からの最適なルートがすぐに表示される。徒歩わずか2分ほどで、山王台と呼ばれる広場に到着する。周囲にはテラスカフェや案内板も完備され、ゆったりと散策を楽しめる環境が整っている。早朝の静けさの中で見上げる姿と、午後の木漏れ日を浴びる姿で表情が微妙に変貌する点も見逃せない。
時代を超えて上野の丘に立ち続ける「西郷どん」の眼差し
近代化へと突き進む明治の東京において、どこか浮世離れした姿で佇む銅像。そこには、変わりゆく時代に対する批評的な眼差しのようにも見え、同時に新時代を迎えた国民への温かい温もりのようにも感じられる。
彫刻美術としての美しさはもちろん、そこに込められた作り手たちの葛藤と民衆の想いを知るとき、目の前に立つブロンズ像はより一層の深みを増して語りかけてくる。上野の丘を訪れた際は、ぜひ少し立ち止まり、その視線の先にある空を見上げてみてほしい。 (出典: 西郷 隆盛 銅像(Yahoo!ニュース))