平壌にそびえる未完の巨大要塞、柳京ホテル絶望と執念の30年
柳 京 ホテルは、北朝鮮の首都・平壌の空を突くようにそびえ立つ105階建ての巨大な三角錐である。高さ330メートル。かつて世界最高のホテルを目指して着工されたこの建造物は、いまや「人類史上最大の未完建築」として世界中の関心と謎を一身に集めている。外観を覆うガラスパネルが太陽光を鈍く反射する一方で、その背後には不気味なほどの静寂が広がっている。
平壌市内のどこにいても嫌でも視界に飛び込んでくるこの怪物のようなシルエットは、訪れた旅行者に強い圧迫感を与える。だが、薄暮の街に怪しく浮かび上がる柳 京 ホテルの美しいファサードとは裏腹に、一般の観光客が内部へ立ち入ることは今なお固く禁じられたままだ。幾重もの噂と虚構に彩られた巨大な影。一体なぜ、この建物は30年以上の歳月が流れても客を迎え入れることができないのか。
105階建てのピラミッドが放つ圧倒的な異彩と虚構
遠くから見上げれば、まるでSF映画のセットだ。荒涼とした平壌の街並みにおいて、この超高層構造物のスケール感は明らかに異質と言わざるを得ない。計画当初、3000室の客室と5つの回転レストラン、カジノやナイトクラブを備えた超豪華リゾートとして設計された。冷戦末期の国家の威信を賭けたメガプロジェクトだった。
しかし、巨大な外観とは裏腹に、内部は長年にわたりコンクリートの骨組みが裸のまま放置されてきた。都市のランドマークでありながら、地図から消され、公式写真では修整されて消し去られた歴史すらある。圧倒的な存在感でありながら存在しないかのように扱われる、まさに国家の矛盾を象徴する巨大な廃墟である。
30年以上未完の真相:崩壊説と最新施工状況を独占追跡

なぜ30年以上もの間、開業のテープがカットされないのか。着工は1987年。ソビエト連邦の資金援助を頼みに進められた計画は、1991年のソ連崩壊とともに突如として暗頓たる暗雲に覆われた。北朝鮮を襲った深刻な経済難と飢饉により、外貨は底をつき、1992年に工事は完全にストップした。
長年放置されたコンクリートの品質劣化、エレベーターシャフトの歪み、最頂部の構造的欠陥など、解体不可避と囁く崩壊説や怪情報は絶えない。一時期は「地震や強風でいつ崩れてもおかしくない」との噂が流布した。専門家が潜入調査を試みた際も、内部は配管も配線もない空洞のシェルに過ぎなかったという報告がなされている。
近年の最新観測によると、外装ガラスの取り付けこそ完了したものの、高層階の内部施工はいまなお遅々として進んでいない。一時期ささやかれた「全面解体説」は費用面から事実上不可能と見られており、未完成のまま外観だけを繕い続ける綱渡りの状態が続いている。
金正日時代から金正恩体制へ引き継がれた国家の「野望」

この巨大な建造物は、最高指導者の権力の変遷とその執念を色濃く映し出している。1980年代、韓国がソウルオリンピックに向けて急速な発展を遂げる中、当時の指導者・金正日によって推進されたのが柳京ホテル建設プロジェクトであった。南への対抗心と、朝鮮民主主義人民共和国政府の威信を示すための国威発揚事業だったのだ。
権力を受け継いだ金正恩体制下において、この建物は新たな役割を与えられることになった。内装の未完を隠すかのように、タワーの壁面全体に巨大なLEDプロジェクションが埋め込まれたのだ。現在では夜間になると、北朝鮮の国旗や政治スローガンが数百万個の光となって蠢く、世界最大級の巨大プロパガンダ看板へと変貌を遂げている。
エジプト資本オラスコムの介入と眩いLEDディスプレイの罠
長らく放棄されていた荒野の要塞に転機が訪れたのは2008年のことだ。エジプトの通信巨大与党であるオラスコム・ホールディングが、北朝鮮での3G携帯電話事業参入の対価として、ホテルの建設再開資金を供給することに合意した。これにより、剥き出しだったコンクリート肌に一面のみずみずしいガラスパネルが装着された。
だが、輝かしい外観の完成は「完成」を意味しなかった。オラスコム側も莫大な内装費用を前に撤退を余儀なくされ、施工は再び途絶えた。表面を覆う煌びやかなLEDの光は、内部がいまだガラクタと埃に満ちた空洞であることを隠すための、極めて精巧な「罠」に過ぎないのだ。
NetflixやNatGeoも注目するダークツーリズムの聖地
この未完の異形建築は、いまや世界中のメディアや旅行者の好奇心を刺激してやまない。極限の状況や悲劇の現場を訪ねる旅スタイル、いわゆるダークツーリズムの文脈において、平壌のピラミッドは絶好のテーマとなっている。
Netflixのドキュメンタリー番組『ダークツーリズム: 世界の危険な旅』でも取り上げられ、その不気味な存在感は世界中に配信された。また、National Geographicをはじめとする海外のドキュメンタリークルーも、この謎多き巨大建築の影を追い続けている。立ち入ることが許されないからこそ、その秘められた闇は人々を引きつけて離さない。
解体か完成か?国際観光業と建築業界が見つめる未来
現代の建築業界において、これほど巨大な構造物が30年以上も未完成のまま放置される例は他にない。構造計算の専門家たちは、一度冷え切り老化したコンクリート構造体に、現代の基準に適合する設備を流し込むことの困難さを指摘する。解体するには周囲への影響と莫大なコストがかかり、完成させるには過大な投資に見合う需要が存在しない。
将来的に国際観光業へ本格的に門戸が開かれる日が来たとしても、このホテルが本来の目的通り客を迎える日は訪れるのだろうか。平壌の空にそびえるガラスの巨塔は、過剰な野望と冷酷な現実の狭間に取り残されたまま、これからも沈黙を守り続けるのかもしれない。 (出典: 柳 京 ホテル(Yahoo!ニュース))